ちくま文庫から発刊されている『クマにあったらどうするか』。
表紙の可愛らしい親子ぐまに一目惚れ!迷うことなく、購入しました。
本の語り手は、アイヌ民族最期の狩人 姉崎 等(あねざき ひとし)さん。
アイヌの血を引く姉崎さんが「クマ撃ち」としての自らの体験をもとに、クマの習性やクマに出逢ったときの対処法を、著者とのインタビュー形式で伝授しています。
今回は、アイヌ民族のクマ撃ちが語る本『クマにあったらどうするか』を紹介します(`・(エ)・´)ゝ
本の内容
クマより貧乏の方が怖い
北海道 鵡川町で生まれ、屯田兵の父親とアイヌ民族の母親を持つ姉崎さん。
アイヌ民族の集落で育ちながらも、アイヌと和人のハーフであったため、冷遇された子供時代を過ごしたそう。
幼い頃に父親が他界。一家を支えるため、小学三年生の頃から狩猟や釣りで生計を立てていたという苦労人です。
この本を読んで何より驚かされたのは、姉崎さんのポテンシャルの高さとその行動力。
貧乏から抜け出すために、昼間は米軍基地で働きながら、夜は山に入りイタチを獲ったりキノコを採ったり・・。
「クマより貧乏の方がよっぽど怖い」と仰られているように、がむしゃらに働いていた様子が本書から伺えます。
地図も持たずに山に入る!?
驚いたのは、山に狩りに行くときの姉崎さんの装備。
まず、地図やコンパスの類は一切持って行きません。
何度も山に入り、山の地形や木の場所を頭に叩き込んでいるので、真っ暗な夜でも決して迷うことはないそう。
夜の山なんて、想像しただけで恐ろしいですけどね・・。
また、冬山に入るときも特別な格好はせず、普通の長靴に、普通の作業ズボン、市販の靴下、薄い帽子、手袋はなんと軍手一枚!
山に関して全く素人な自分からすると、考えられない軽装備です。
他にも、木を一本だけ倒して作る仮小屋の作り方や、山の天候の読み方、視界ゼロの中での山の歩き方などなど・・。
ベア・グリルスもびっくりする、サバイバル術満載の内容となっていますヽ(´@(エ)@`)ノ
やっぱり、野生のクマって凶暴なの?
クマといえば、テディベアやプーさんなど世界中で愛されるアイコン。
その一方、野生のクマのイメージは「凶暴」「人喰い」「残虐」といった、負のイメージを持たれることが多いですよね。
実際、クマの事件は耳を塞ぎたくなるような内容が多いのも事実。
クマ好きの私ですら、特にヒグマに関しては、小さい頃から危険な動物であるという認識が強いです。
しかし姉崎さんは、凶暴なイメージを持たれる野生のクマ(特にヒグマ)に対して、「クマは、本来人を襲うような動物ではない」と何度も何度も語っています。
姉崎さん曰く、
クマは、ライオンやトラといった肉食動物のように、人を見たらすぐ襲ってくるということはまずなく、非常に人間に遠慮しながら生きている動物である。
クマの方も人間を恐れているからこそ、人間の動向を観察してなるべく出会わないように気にしている。
出典:『クマにあったらどうするか』
・・と言うのです。
たしかに、童謡『森のクマさん』の中でも「♪お嬢さん、お逃げなさい〜」と歌ってるところを聞くと、無闇に襲いかかってくる動物ではなさそうですよね(´-(エ)-`)
人を襲うクマの見分け方
「クマは本来、臆病な動物。人に会ったら、向こうから逃げていくことが多い。」と語る姉崎さん。
しかし、気を付けなければならないクマもいるそうです。
① 一度でも人を襲ったことのあるクマ
人の味を覚えたクマや、人を襲ったことのあるクマは非常に危険です。
なぜなら、人間のことを弱いと認識し、人間を全く恐れなくなるため、何のためらいもなく襲いにくるそう。
そのため、次の犠牲者が出ないように、そのようなクマはハンターが必ず駆除しなければなりません。
② 子連れのクマ
子グマを連れているため、警戒心がとても強く、子供を守るために人間を襲ってしまうこともあります。
これは、他の動物にも当てはまりますね。
大きいクマほど安心?
姉崎さんの言葉で、特に印象に残ったのが「大きいクマほど安心」という言葉。
普通、体の大きいクマほど凶暴で怖いイメージがありますよね。
しかし姉崎さんは、「大きいクマは人を襲うなどの悪さをしてこなかったので、大きく立派に育つことができた」という、逆の発想で捉えているのです。
前述したように、人に悪さをしたクマはハンターに駆除されてしまいますからね。
クマのことを知り尽くした姉崎さんならではの考え方に、なるほどなぁ〜と感心してしまいました。
クマにあったらどうするか?
では、ついに本題です。
この本のタイトルでもある『クマにあったらどうするか』。
ちまたでは、「死んだフリをする」だとか「ゆっくり後ずさりしながら逃げる」など聞きますが、実際どうすれば良いのでしょう。
色々諸説あるとは思いますが、本書では姉崎さん自身の経験や、アイヌの教えから導かれた対処法が掲載されています。
クマにあった時の対処法
姉崎さんの場合、クマと出逢ってしまったら、以下の行動を取るといいます。
まず、相手(クマ)の動作をゆっくり見る。
↓
そして、真正面から棒立ちになった状態でじっと立ち尽くす。
↓
相手(クマ)から目をそらさずに「ウォー」と低い声を出す。
まず、重要なことは「クマに人間の存在を気付かせてあげること」。
そして、「逃げずにじっと立ち尽くすこと」で、相手(クマ)より自分(人間)が弱いことを悟られないようにするのです。
姉崎さん曰く、この方法を実施すれば、たいていのクマは人間の存在に気付き、相手に敵意がなく自分に危険が及ばないと判断すると、そそくさと立ち去っていくと言います。
簡単そうに言っていますが、実際目の前に2m近くあるヒグマがいたらそんな余裕絶対ないですけどね…(泣)
逃げ出さないこと、それが大事
本書で、姉崎さんが何度も口酸っぱく繰り返していたのが「決して逃げないこと」。
クマに出逢ってしまったら、絶対に背中を見せて逃げ出したりしてはいけません。
なぜなら、逃げる者を追いかけたくなるのが動物の本能というもの。
それに、たとえ走って逃げたとしても、クマの方がよっぽど足が速いため追いつかれてしまうのがオチです。
「逃げるくらいなら、腰を抜かしてでもじっとしていた方が良い」と、繰り返していたのが印象的でした。
他にもいくつか予防策なども挙げられていましたが、特に強調していたのは以上のこと。
一見簡単そうに見えますが、いざ自分が森の中でクマに出逢ったら、全速力で走って逃げてしまうような気がします…(´-(エ)-`;)
感想
クマとの臨場感あふれる死闘
本書では、凶暴なクマと姉崎さんが繰り広げる必死の死闘も描かれています。
その臨場感あふれる語り口は、まるでその場に居合わせたかのような大迫力!
特に、姉崎さんが「生涯で一番危険だった」と語るクマとの決闘は必見です。
クマとの距離、たったの約2メートル。銃には、弾が一発だけ。
そんな絶体絶命の場面でも、怖じ気付かず冷静に対処する姉崎さん。
「相手より俺が強いんだという強い心」でクマに立ち向かう、その強靭な精神力に圧倒されました。
姉崎さんの屈強な精神力を見ていると、なんだか自分自身がどれだけちっぽけな人間なのかを痛感。。
虫一匹でギャーギャー言ってる自分が、ヒジョーに情けなく思えてきます…(–;)
クマは奥ゆかしい動物?
私は北海道出身。小さい頃から、アイヌやヒグマを身近に感じながら育ってきました。
そのせいか、こんなブログを立ち上げるほどのくま好きに成長(笑)今では、すっかりくまの虜です。
そんなくま大好き人間な私でも、やっぱり野生のクマは怖い。。
小学生のとき、郷土資料館の地下室で「ヒグマの胃から出てきたヒトの一部」が入ったホルマリン漬けを見て以来(若干トラウマ…)、ヒグマは恐ろしい動物だと思い込んできました。
しかし、この本を読んで野生のクマのイメージが一変。
特にヒグマは凶暴なイメージがありましたが、実際はとっても臆病な動物とのこと。
人間をじっと観察し、自分たちの姿を決して見せないよう、人を避けながら歩いているというのです。
「クマは人間に遠慮して暮らしている」という姉崎さんの言葉に、なんだかクマの「奥ゆかしさ」を感じずにはいられませんでした。
とは言っても、やはり強大なパワーを持った動物であることは事実。
遭遇しないに越したことはないですけどね^^;
まとめ
いかがでしたでしょうか。
山のすべてをクマから教わり「クマが私の師匠」と語る姉崎さん。自然の恵みを享受しながら生活する、そのたくましい姿に非常に感銘を受けました。
また、クマの話だけでなく、アイヌの知恵や風習も交えた語り口に、終始驚きと感嘆の連続!あっという間に、読破できちゃいます。
本物のクマに興味がない方でも、ぜひ読んでほしいオススメの一冊。山に行く機会が多い方は、一読しておくとクマに遭遇した際の参考になるかもしれませんよ♪
以上、アイヌ民族のクマ撃ちが語る『クマにあったらどうするか』のご紹介でした(´・(エ)・`)